「遊びは文化より古い」、ホイジンガは彼の著書『ホモ・ルーデンス』の中でそう述べ、文化が遊びの中から遊びとして生まれ、遊びとして発展したと論じている。 そして、ロジェ・カイヨワはその論を受け継ぎ、遊びを四つの基本的範疇に分類した。すなわち、アゴン(競争)、アレア(偶然)、ミミクリ(模擬)、イリンクス(眩暈)である。はたして釣りはどの範疇に属する遊びであろうか?
面白いことに、釣りにはその全ての要素が含まれている。例えばアゴン。これは三瓶の釣りによく現われている。日頃は謙虚で心穏やかな彼であるが、ひとたび勝負となったときの競争心はものスゴい。その競争心が彼の驚異的な勝率の要因であるとも言えるのだが、彼の競争心はただ単に獲物や対戦相手に向けられるのではない。もっと根源的でスケールの大きな競争の釣りなのである。
アレアは火玉小僧の釣りに見て取れよう。釣歴はそこそこあるが、彼には釣りのセンスとテクニックが致命的に不足している。そこで、彼は偶然を期待し運に身を任せて流れにルアーを投げ入れる。まるで酔いどれギャンブラーがスロットマシンのハンドルを繰り返し引き下げる(そしてクルクルと回るのは同じくリールだ)ように。そのうち大当たりが出るのかもしれない。
爆笑王の釣りはミミクリだ。彼は釣雑誌を眺め、釣具店を巡り、妄想を膨らませる。そして釣具を買い揃え、最新の装備を身にまとい、すっかり自分が名人であると思い込む。釣果はいっこうに上がらないがそれは構わない。彼の釣りは着せ替え人形遊び、あるいはママゴト遊びに似ている。
そしてイリンクスは釣銭の釣りだ。たまには釣果もあるが基本的に魚は不要だ。清流ではフリチンで泳ぎ、竿を折り、焼酎をあおって、ゲロを吐く。眩暈感を楽しむと同時に、その迷惑行為は他人にも眩暈を起こさせる。
もちろん、四つの釣りはいずれも立派に釣りである。それらの間に上下の区別は無い。今後もそれぞれの釣り方で力を発揮できるよう修行に励むべきであろう。
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