その42.小森川編


ここら辺りが良いだろう。
車を停めると、さっそく私はウェイダーを着込んで流れへと歩を進めた。
最近、歳のせいで体力の低下を感じている身には、こういう入渓しやすい川は助かる。
歩きやすいのはいいのだが、歩いても歩いてもアタリがない。
さらには気配すら感じられない。
そろそろ休憩しようと思ったころ、ようやく気配が濃厚な小さな淀みに出くわした。
私は狙いを定めてルアーを投げ入れた。
その正確な一投は、たしかな手応えを私の竿に返してきた。
私は反射的に上体を大きく後ろに反らせる。
彼女は針を外そうと大きく跳ね上がる
私は素早くリールを巻き上げる。
      彼女は尾ひれを水面に打ち付けて、その反動で身をよじらせる。
      私は手首を利かせて反力を調節する。

            逃げようとする彼女を、私は追いかける。
            だがそれは、逃げる私を彼女が追いかけているのでもある。
            いずれにしても、釣りは獲物との闘いではない。
            二人で楽しい時間を共有しているのである。

原種山女:D種(測定不能)




070728
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