その76.桐生川編


今回の目的地は桐生川だ。
しばらく川沿いに車を走らせると、整備された駐車スペースがあったので車を停めた。
立っていた案内板を参考に、少し歩きながら入渓地点を探ることにした。
「山地(梅田町五丁目あたり)を荒らし回った山賊から村を救い身をひそめようと渡り始めたとき、この渕に誤って足をすべらせ、あわれその滝壺に落ちてしまった千代女。」
そんな民話が伝わっていて、此処は『千代の滝、千代が渕』と呼ばれているらしい。
見下ろすと、恐ろしいと言う程ではないが、その落差はそれなりに大きかった。
白く泡立つ流れが、もがき苦しむち千代女の姿を想起させた。
足を滑らせた千代女は、滝壺に落ちながら何を思ったのであろうか・・・?
千代女の二の舞になるのは嫌だから、もう少し歩いて入渓しやすいところを探すことにした。
5分ほど歩いたところで穏やかな流れに降り立った。
しばらくは平穏な流れが続いた。
 20分ほど歩いた頃、幽かなきらめきが私の目をかすめた。
私は反射的にルアーを投げ入れた。
アタリを感じると同時にロッドを跳ね上げた。
高速でリールを巻き上げる。
手元で魚体が跳ねた。
ネットには難なく納めることが出来た。
良型だ。
 しばらくその美しい姿を眺める。
 写真に納めて別れを告げる。
また会おう。
それまで元気で!

 原種山女:AR種(24cm)
早い時間に釣果があると気分が楽になる。
これからは余裕の釣り上がりだ。
木漏れ日の中を歩く。
実に気持ちがいい。
さらに20分ほど歩いた頃、幽かなきらめきが私の目をかすめた。
私は反射的にルアーを投げ入れた。
アタリを感じると同時にロッドを跳ね上げた。
高速でリールを巻き上げる。
手元で魚体が跳ねた。
 
今度は少し時間がかかったが無事にネットに納めることが出来た。
美しい。 
魚体の色合いや模様は先程のと似ている。
やはりその姿形は育った環境によって決まるものらしい。 
その美しい姿を写真に納める。 
また会おう。
それまで元気で!
 

原種山女達:IM種(38cm)
既に十分な釣果は得たのだが時間はまだたっぷりある。
濃厚なオゾンを身体に採り込みながら更に釣り上ることにしよう。
新緑を楽しんでいた私の目を、幽かなきらめきが横切った。
私は反射的にルアーを投げ入れた。
気を引くために軽くルアーを泳がせてみるが反応がない。
小刻みにルアーを踊らせる。
今度はどうだろうか・・・
アタリを感じた瞬間にロッドを跳ね上げた。
超高速でリールを巻き上げる。
手元で魚体が飛び跳ねた。
引き寄せるのに時間がかかったが、何とかネットに納めた。
艶のある素晴らしい魚体だ。
大きさも形も申し分ない。
 その美しい姿を写真に納める。

原種山女達:AY種(27cm)
流れにその身を放つと、別れを告げる間もなく川上へと泳ぎ去って行った。
それにしても、姿形がとてもよく似ていたな・・・
そのことが気になっていたのだが私なりに謎が解けた。
きっと彼女たちは千代女の末裔なのだ。
千代女は死んではいなかったのだ。
滝壺に落ちた千代女は村人たちに助けられ、村の若者と家庭を持ったのだ。
そう考えると気持ちが明るくなる。
千代女が滑り落ちながら見上げた空が、樹々の隙間から覗いた。
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