その65.山中入 編


前にも来たことがあるので勝手は知っている。
本流から少し入ったところに車を止めて沢に入ることにする。
ふと足元を見ると、白いキノコが大きな傘を広げていた。
不思議な香りが鼻腔をくすぐる。
沢に降り立った途端、目の前を魚影がかすめた。
まだ竿の準備は整っていなかったが、とにかく慌てて後を追いかける。
溜まりに潜ったタイミングを見計らって直に網で掬い上げる。
 網の中を見ると、観念したのか、暴れることもなく静かに身を横たえている。
しばらくその美しい魚体を眺める。
リリースすると、その姿は上流へと消えていった。
改めて竿やリールを整えて立ち上がると、背中に吊るした網が重い。
手に取ってみると、そこにはリリースしたはずの魚がいた。
しかも、その姿は変化していた。
 大きく拍動する魚体。
暫しその姿に見とれていたが、激しい水の音で我に返る。
いつの間にか目の前には小滝があった。
網の中の魚体は再びその姿を変えていた。 
日差しを受けて、その姿は艶めかしく光り輝いていた。
大きく脈打つ白い魚体。
恍惚感に浸っていると、再び大きな水音と水しぶきで我に返る。
目の前には堰堤が迫っていた。
いつの間にこんな所に辿り着いたのだろうか?
私は入間川の起点に立っていた。
 

原種山女:AC種(37cm)
 

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