その63.(名栗 湯基入)編


飯能から入間川沿いに名栗方面へと車を走らせる。
名栗湖と秩父方面との分岐点の1Kmほど手前を左に折れて湯基入沿いの道を進む。
川を背にして建つ大松閣という温泉ホテルの少し先あたりに車を停める。
川沿いに宿泊客用の遊歩道が設けられているため入渓は拍子抜けするほど簡単だ。
すぐに遊歩道は終わり、いよいよ釣行の始まりだ。
水量が少ないので要所要所を丁寧に攻めていくことにしよう。
何となく魚の気配が感じられる。
しばらく行くと、流れは車を停めた道と斜めに交差し、下を潜るトンネルになる。
その暗がりの中では、流れの中の魚影を目視することができない。
正面から射す光が眩しい。
思わず目を細めたとき、何者かの影が私の視界をかすめた。
向こうも私を確認したらしく、身を反転させて逃げ出した。
反射的に私は追いかける。
逃げるから追いかけるのか、追いかけるから逃げるのか?
二酸化炭素が増えるから温暖化するのか、温暖化するから二酸化炭素が増えるのか?
デフレだから需要が減るのか、需要が減るからデフレになるのか?
人は太ったせいでヒザが痛くなるのか、それともヒザが痛いせいで太ってしまうのか?
要するに、ニワトリが先なのか、卵が先なのか?
いずれにしても、一度始まってしまうとなかなかストップはかけられないのだ!
お互いに息も切れ切れになった頃、行く手を落とし込みが阻んだ。
疲れた体ではもうこれ以上遡ることは出来まい。
追いかけっこも漸くこれでお仕舞いだ。
私は、泡立つ水面めがけてルアーを投げ込んだ。
相手はもう抵抗することはなかった。
そして彼女は、私の掌の中で幸せそうに大きく息をついた。

原種山女:MY種(25cm)

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