その53.羽黒川(上流)編


開始直後のことだった。
三瓶が巨大な岩魚を釣り上げた。
今日は久し振りにFIFA主催の競技大会である。
会場は山形県の羽黒川。
まさしく梅雨真っ只中の降水確率100%という悪コンディションの中で決行された。
競技のルールは「早上がり方式」。
つまり、先に釣り上げた者から抜けて行き、それがそのまま順位となるのである。

三瓶は早くも優勝を決め、会場を後にした。
後に残されたのは釣銭と爆笑王である。
二人とも必死の釣りを試みるが、先行したのは釣銭である。
絶好のポイントを確保する。
爆笑王も負けてはいない。
高速リトリーブで巻き返しを図る。
釣銭は巧みに爆笑王の動きを背中でブロックして優位を保とうとする。
爆笑王も得意の水溜りのメダカ狙いで対抗する。
だが、この日は運も釣銭に味方した。
数を放ったルアーに小さな山女が食いついた。
勝負は決したのである。

釣銭の釣果を目のあたりにした爆笑王のショックは大きかった。
哀れにも意味不明の言葉を口走りながら流れを駆け下る。
そして爆笑王は大きく身体のバランスを崩した。
更にはそのまま流れの中へと転げ落ちた。
体勢を立て直そうとはするが折からの雨で川の流れは勢いを増している。
もはやどうすることもできなかった。
爆笑王は何度か川面に浮き沈みした後、下流へと流されて視界から消えた。
懸命の救助活動が行なわれた。
皆から疎んじられているとは言え爆笑王とて人の子だ。
このまま最期を迎えさせるのは忍びない。
しかし、なす術はなかった。
救助隊の疲労が増すにつれ、まあ仕方がないという雰囲気が大勢を占めてきた。
確かに爆笑王が居ない方が世の中平和である。
いつの間にか雨も上がってきた。
南無阿弥陀仏!
皆がそう唱えると、さっきまでの梅雨空は嘘のように晴れ渡った。
原種山女:MM種(34cm)




















誰もの関心が宿での露天風呂と夕飯に移った頃、上流に小さな人影が現われた。
先頭を行くのは・・・
釣銭だ!
そしてその後ろは・・・
死んだはずの爆笑王ではないか!
残念ながら生きていたのだ!
しかし、さすがに毒気が抜けてしまって元気が無い。
我々に追いついた途端、傍目を気にすることもなく泣きじゃくる爆笑王なのであった。




090612
inserted by FC2 system