その52.赤平川編
赤平川の流れは穏やかだった。 ここを訪れるのは初めてなのに何故だか懐かしさがこみ上げてくる。 |
岸に降り立った私は上流へと向かう。 障害となる岩場や倒木もなく非常に歩きやすい。 足の裏に伝わるこの感触は小学生の頃の通学路だった砂利道を思い出させる。 もしも出来ることなら時の流れもあの頃へと遡ってみたいものだ。 |
20分ほど歩いただろうか。 いや、もう半日近く歩き続けていたかもしれない。 前方にどこかで見覚えのある家族連れが立ち現われた。 それは小学校で同級生だった幼なじみの一家だった。 向うも私の事は覚えていてくれたらしく、私達はどちらからともなく笑顔で挨拶を交わした。 ちょっと白髪が増えてはいるがご両親はお元気そうだ。 ひょろっと背が高くて色白の兄上は受験勉強の真っ只中らしい。 それとは対照的に、部活が忙しいという弟君はすっかり陽に焼けている。 まだ幼い妹君は恥ずかしそうに身をよじっている。 |
みんな元気そうだ。 しかし幼なじみである当の本人の姿が見えない。 あの子はどうしているのかと訊ねると、この先で独りで遊んでいると母上が教えてくれた。 |
私は上流へ向かった。 突然現われてビックリさせてやろう! それにしてもアイツとはよく口喧嘩をしたものだ。 いや、口喧嘩というよりは私が一方的にからかっていたという方が正確かもしれない。 鼻ぺちゃ、デカ尻、チビ、出ベソ! しかし今にして思えば、それは幼かった私の愛情表現でもあっただろう。 今のアイツはどんなだろうか・・・ |
目の前にアイツが現われた。 無邪気な表情と仕草は昔のままだが、女としての輝きは眩しいくらいだ。 しかもその美しさは表面的なものではなく穏やかに内側からにじみ出てくるものだ。 |
私は声を掛けることができなかった。 木陰に身を隠したまま、私はただ黙ってアイツの姿を遠くから眺めていた。 |
私はそのまま引き返すことにした。 もう少し修行を積み、アイツに相応しい男になったらまた訪ねて来よう。 3年後か5年後かそれは分からないけれど、きっと立派な男になって君を迎えに来る! |
原種山女:UA種(23cm) |
野に咲く花よ、その時まで優しく咲き続けていておくれ! |
090503 |