その34.重川編
奥多摩湖をやり過して丹波川沿いに青梅街道を西へと走る。 さらに富士山を見ながら大菩薩ラインを南下する。 絡み合うように併走するのが重川だ。 深沢七郎の小説のタイトルにもなった笛吹川の支流でもある。 この辺りではアマゴが釣れるらしい。 ヤマメに似ているが、宝石のように輝く赤い斑点が特徴の魚だ。 |
道沿いの駐車エリアに車を停めて川に下りる。 川の水は少し黄色味がかっていて澄んではいない。 何故か不思議な懐かしさを感じる。 ずっと昔に出会った気がする光景だ。 そんなことを思う私の肩越しに、とつぜん水しぶきが飛んできた。 |
振り返ると、そこには一人の娘がいた。 まだ都会の色に染まっていない、無邪気な笑顔が印象的な娘だ。 どこか初恋の人(SNさん!)に似ている。 それにしても、あの頃の私は子供だったから上手く気持ちを伝えられなかったなあ。 好意の裏返しで、わざと嫌われるようなことばかりして。 今はどんな女性になっているんだろう。 会いたいなあ。 会って、あの頃の気持ちを伝えてみたいなあ。 |
原種山女:YM種(25cm) |
と、そこに娘の姿はもう無かった。 上流へ戻って行ったらしい。 会いたいなあ。 もう一度会いたいなあ。 私は流れに逆らい、全力でその娘の跡を追った。 |
5時間ほど歩き続けると源流近くになり、川幅は極端に狭くなった。 私はあの娘の姿を求めて流れの中を覗き込んだ。 |
雑踏の中を、私はあの娘を必死に探し続けた。 さらに3時間程も彷徨い続けただろう。 とある店先に彼女の姿はあった。 |
彼女は見違えるほど綺麗になっていた。 磨き抜かれた都会的センスの光る、好い女になっていた。 高価な装飾品を身にまとい、体全体から色鮮やかな輝きが放たれていた。 しかし、彼女は寂しげだった。 その美しさを手に入れるため、いったい彼女は何を捨ててきたのだろう。 |
私は声をかけることも出来ず、ただぼんやりとその姿を眺めていた……。 |
060902 |