その29.多々良沼編(特別付録)



今年の鱒釣りも禁漁期に入ってしまった。今になって思うと、あの川にも行っておけばよかった、あの湖にも行っておけばよかった、と悔やまれてならない。つくづく人生に似ていると思う。そんな寂しさを紛らわすという意味もあって、今日は群馬県立館林美術館に足を運んだ。ハンス・アルプの彫刻展を観るためだ。展覧会の内容も充実していて満足できるものであったが、田園地帯に佇む美術館そのものもなかなか素晴らしかった。気持ちよく美術館を後にした私は、少し周辺を歩いてみることにした。
延々と続く田んぼの稲穂が穏やかな日差しを浴びて輝いている。今年は実りも良さそうだ。小さかった早苗チャンは、私が鱒釣りにウツツをぬかしている間にこんなにも大きく立派に成長していたのだ。
しばらく歩いていくと一本の川にぶつかった。岸辺にはところどころに大きな釣竿を抱えた人がいる。きっと鯉でも釣っているのだろう。とそのとき、手前の男が魚を釣り上げた。水色の魚体がキラキラ光っている。やっぱり「コイは水色」。しかし古すぎる。
今度は川に沿って上流方向へ歩いてみる。釣れ過ぎたのか、それとも全く釣れなかったのか、釣りに飽きてしまった男が土手で居眠りをしている。やっぱりこの男もライオンの夢を見ているのだろうか。
そうこうするうちに大きな湖にたどり着いた。多々良沼と言うらしい。ここでも釣りが楽しめるようだ。桟橋が遠くまで伸びている。晴れた日にのんびりとヘラブナ釣りというのも良いものだ。
傍に立っていた案内板によると、ここ多々良沼は白鳥が飛来することでも有名なようだ。冬の訪れとともに、遠くシベリアから数百羽の白鳥がここまで渡ってくるらしい。
私は白鳥達が楽しげに舞い踊るその姿を思い描いた。「くるみ割り人形」から「白鳥の湖」へとチャイコフスキーのメドレー!鱒釣師にとって冬はただ寂しいだけの季節ではない。

原種山女:AM種(15cm)
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