その20.後山川編(2)



春の訪れとともにこれからいよいよ本格的な釣りのシーズンを迎えることとなる。
今日は三瓶と爆笑王が連れ立って後山川へ向かうらしい。
私は密かに彼らの後を追うことにした。
真面目に修行に励んでいるかどうかをチェックするためだ。

それにしても素晴らしい日和だ。
奥多摩では僅かに木々が芽吹き冬の色と春の色が絶妙のバランスで交じり合っている。
川に降り立ち上流へと向かう。
水はまだまだ冷たいが痛くはなく心地よい。
疎らで淡い緑も内側に成長力を秘めて美しく輝いている。
私は大きく深呼吸してから彼らに追いつくために歩を速めた。
まずは三瓶がいた。
じつに真剣な面持ちである。
花粉症のマスクで息苦しそうだが何度も何度も投げ込みの基本練習を繰り返している。
世間では彼を天才と呼ぶが人知れず行なう惜しみない努力を見逃してはならない。

次は爆笑王のチェックだ。
爆笑王がいた。
どうやらルアーを失くしたらしい。
枝に引っ掛かったルアーを力任せに引っ張ったら後方に飛んで行ったようだ。

ペイントも殆んど剥げ落ちた安物だからと諦めて次のルアーを選んでいたその時だった。
背後に何者かが現われて爆笑王にこう訊ねた。
「お前が失くしたのはこの赤いルアーか?」

爆笑王は答えた。
「さようで!このピッカピカの真っ赤な奴に間違いごぜえません!」

続けて爆笑王は言った。
「もう一個なかったでしょうか?少し前に失くしたんで。」

原種山女:TR種(25cm)
しばらくすると再びその何者かが現われ爆笑王にこう訊ねた。
「お前が失くしたのはこの白いルアーか?」

爆笑王は答えた。
「さようで!この純白無垢な奴でごぜえます!」

続けて爆笑王は言った。
「じつはもう一個失くしました。嘘ではごぜえません。」

原種山女:YA種(25cm)
しばらくすると三度その何者かが現われ爆笑王にこう訊ねた。
「お前が失くしたのはこの黄色いルアーか?」
爆笑王は答えた。
「さようで!このとってもイエローな奴でごぜえます!」
続けて爆笑王は言った。
「じつは・・・」

その時、彼の小さな瞳の奥で邪悪な光が鉛色に輝いていたのは言うまでもない。

原種山女:Y種(27cm)




050423
inserted by FC2 system