その15.湯の湖編(2)



1年ぶりに湯の湖へと向かう。
靄がかかった道を進みながら、
爆笑王と釣銭の二人には今日の釣りでの心構えを説いて聞かせた。
彼等がどの程度まで理解できたのか、はなはだ疑問ではあったのだが・・・
湖へ着くと、私は休む間もなく彼等への指導を開始した。
珍しく、爆笑王も神妙な面持ちである。
私の根気強い教育活動がようやく実を結び始めたのだろうか。
釣銭もいい感じでやっている。
後姿に真剣さが感じられる。
今日は彼等なりに何かを掴んでくれるだろう。
と安心したのも束の間、先程からなにやら騒がしい。。
見ると、爆笑王が釣り上げた12cmニジマスを引きずり回しながら大喜びしている。
隣の客も迷惑顔だ。
私は師として弟子の不始末を詫びた。
釣銭はと振り返ると、いつの間にか放流車の横に陣取っている。
何故かこういう場合には迅速な行動をとれる男だ。
だが、何か根本的に間違っていないか。
それに、原種山女が放流車から出てくるわけはないだろう!
私は大きな声で彼を叱責した。
その時、傍らには、そんな私達のやり取りを見ながら微笑む姿があった。
原種山女だ。
私は早くこちらを狙うようにと釣銭に指示を出した。
しかし、彼は一向に気が付かない。
どうやら彼の目には放流車しか映っていないようだ。
それにしても可愛らしい奴だ。
エクボがいい。
釣銭には分からないのか!
私が釣り上げるのは簡単なのだが・・・

原種山女:IY種(18cm)
私はもう一度だけチャンスを与えるべく釣銭に声をかけた。
だが彼は振り向きもしない。
邪念が充満した彼の体は、死んだ魚のように硬直したままだった。




040911
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