その10.高麗川高畑入編



線路沿いの道路に車を停めてしばらく歩く。
地味ながらも色々な花が咲いていて私の目を楽しませてくれる。
そして私は、こじんまりとした民家の脇を抜けて渓に下り立った。
10分ほど経った頃、前方に木橋が見えてきた。
なかなか風情がある。
橋の下でとりあえずの一匹。
ごくごく普通のヤマメだ。

「お上手ですね!」
上から声がかかる。
誰かが橋の上から見ていたらしい。
「いやいや、それ程でも・・・」

私は少し照れた。
「ここで釣った人を見るのは初めてです。何が釣れたんです?」
「いやいや、普通のヤマメですよ。ほらっ!」
「とても綺麗な魚ですね。もっと近くで見せてもらえませんか?」
「いいですよ。それじゃ。」
私は魚を袋に入れると側の斜面をかけ登った。
「ほら、お見せするほどの物じゃない。普通のヤマメ・・・」

橋の上には誰もいなかった。

辺りを見回してみたが人の気配すらない。
さっきまで話をしていたのは誰だったんだろう?
不思議に思う私は、その時、袋の異常な軽さに気が付いた。
袋の中にヤマメの姿はなく、代わりに一枚の写真が入っていた。
そして、その写真にはこんなメッセージが添えられていた。
「あなた、ほんとに上手だったわ!」















原種山女:YM種(24cm)





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