その3.日光湯川編(2)
一年ぶりに湯川へやってきた。今回の釣査には東海支部の火玉小僧が参加している。久しぶりの釣査とあってか非常に張り切っている。彼の腕前はまだまだ未熟だが、近年の私生活の充実ぶりが功を奏するかもしれない。また、よく言われるようにビギナーズラックということもありうる。特に、原種山女と対するには何よりも純粋な心の目を持つことが必要であるから、そういう意味では相手に立ち向かう精神は良い意味でビギナーである必要があるのだ。彼の場合、技術的にビギナーであるのは間違いないのだが…。 いずれにしても、分からないなりに竿の具合をチェックしたりして準備には余念がないようだ。 |
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2時間ほど経過した頃であろうか。根掛かりした針がなかなか外れないと、先ほどから火玉小僧が後頭部の渦巻きをグルグルさせながら悪戦苦闘している。見るに見かねて手を貸そうとしたその時だ。火玉小僧の眼前の波紋の中で、何かが美しくきらめいた。それは紛れもない原種山女であった。もたもたしている火玉小僧を尻目にこちらを見つめている。火玉小僧は完全に手玉に取られたのだった。 | |
原種山女:KI種(20cm) | |
釣り逃がした魚は大きい。先程の失敗を悔いてか、火玉小僧はすっかり沈み込んでしまった。がくんと肩を落として後頭部の渦巻きをグルグルさせている。と思いきや、ウエストポーチの中のおにぎりを選んでいるだけであった。シャケにするのかオカカにするのかウメボシにするのか。 そんなことに気をとられているうちに、前方の倒木のあたりに何かの気配が感じられた。目をやると、そこには去年も同じ場所で出会った美しい山女がいた。爆笑王が非礼な行為を行なったことを私はずっと気に病んでいたが、そのことはもう水に流してくれたらしい。今はこちらを見て穏やかに微笑んでいる。どうやら私に好意を寄せてくれているようだ。 |
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原種山女:KY種(27cm) せっかくだから私は彼女と二人で記念写真を撮ることにした。近くの切り株にカメラを据えると、セルフタイマーをセットしてシャッターボタンを押した。 私は足早に歩いて彼女の横に並んで座るとシャッターが落ちるのを待った。ランプは点滅しているが、思ったより時間がかかる。 すると何を勘違いしたのか、釣銭、爆笑王、火玉小僧の3人組がゾロゾロとこちらに集まってくる。どうやら自分達の集合写真を撮るのだと思ったらしい。そして私達の前に立ちはだかったまま、しきりにポーズをとっている。 「邪魔だから退け!」と叱ろうとしたその時だ。フラッシュの光とともにシャッター音がしたかと思うと、その美しい山女はサヨナラも告げずに流れの中に姿を消した。 |
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「チーズ!」 | |
030510 |