その1.日光湯川編



今回は釣銭と爆笑王の二人を連れての釣査だ。少々足手まといだが仕方があるまい。早朝に家を出て、目的地である湯川へと向かった。雨は上がったもののどんよりとした曇り空である。
現地に到着するや、急いで身支度をして川に下りた。いつものことながら釣銭は不用意に川の中を歩いて行く。これでは相手に悟られてしまうだろう。案の定、ひとつの小さな魚影が身を翻して遠ざかっていった。10メートルほど離れたとこところで、再び反転したかと思うとそれは、ほの白い光を放ちながらこちらを見て微笑んでいる。こんなに早く出会えるとは思っていなかった。それは原種山女だったのだ!
原種山女:TM種(32cm)
それからかなりの時間が経過して昼近くになった頃、釣銭がようやく1匹の魚を釣り上げた。普通サイズのブルックトラウトかと思われた。
すぐにリリースしたが様子がおかしい。しばらく動かずにその場所でじっとしたままだ。私を見つめているような気もする。もしかするとこれは!と思ったが後の祭りだ。次の瞬間、素早く身をよじるとそれは、瞬く間に流れの底へと消えていった
原種山女:SY種(24cm)
そろそろ日も傾きかけてきた。爆笑王が稚魚を釣り上げて喜んでいる。それまで全く釣果がなかったからその気持ちも分からないではないが、やはりモラルに反する行為には注意を与えなければならない。そう思っているとどこからか「早く放してあげて!」という声がする。釣銭を見たが彼ではないらしい。そもそも女の声なのだ。もう一度声がした。釣銭の向こう側、倒木のあたりから聞こえてくるようだ。見るとそこには一匹の山女がいた。強く訴えかけるような目でこちらを見つめている。気押された爆笑王が、弄んでいた稚魚をリリースすると、それは稚魚を優しく抱きかかえるようにして静かに流れに身を任せ、ゆっくりと川下へと遠ざかっていった。
原種山女:KY種(26cm)
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